harmaa-2
意識がはっきりするまで頭を振ったが、もう既に依頼主はラウンジを出ていってしまったらしく、姿は視界内に見当たらなかった。
依頼主より遅れる事は、多大な迷惑をかける事になる。そうなる前に急いで後を追おうと立ち上がった瞬間、ニコニコ笑顔のムツミに捕まえられる。
「えと……ムツミちゃん……?」
何故捕まえられたのかは知らないが、早く支度をしなければ。
「どうして裾を掴んでいるんですか…?」
「……あれ、わかってない?」
えっと、これ、呆れられてますね。意図が掴めず、顔をじっと見ていると遂にため息を吐かれた。
「……お代、貰ってないよ」
「あっ」
顔が青ざめるのが自分で分かった。忘れていた。いつもではないが忘れる事が多くある。
慌てて財布を取り出すと鞄からコインが床に転がる。面は表。なにかの模様が彫られてあるが自分には分からなかった。きっと大事なものだったのだろう。
コインをポケットにしまうとお代をお釣りなしで支払う。
「ごめんなさい、ムツミちゃん…忘れていました。」
「ううん、しょうがないよ。だってアヤカさんはそういう事が多いって報告を受けたから。」
ムツミは案外あっさり許してくれた。ただ、諦められていることと、報告を受けた点が少し引っかかる。その報告をした人は一体誰なのだろうか?
「そういえば、さっき特務があるって話してなかった?その時間は大丈夫……?」
思案を始めた途端、遮られた。
「忘れていました!すぐに行ってきます!」
またもや忘れていた。報告の事は後で聞くとして、今大事なのは特務のことだ。任務をこなさなければ神機使いになった意味がないことになる。それは嫌だ。
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ターミナルで用意を済ませ、後は神機を保管庫に取りに行くだけ……だが、ミッションについての説明を全く受けていないことに気が付いた。
特務についてのメールには、依頼主名と時間しか書かれていなかった。大事だったり秘匿したい任務だと依頼主の名前は書いていない。しかし、今回は名前はがあるものの内容が抜けている。
依頼主のユトとかいうのは、私と一つしか変わらないらしいが、年齢よりも外見がずっと幼く見えた。
違和感を覚えたのはそこだけではなく、髪の色もだった。私と同じあの灰色は、色を落としたあと何らかの手を加えねば出来ないが、まだ毛先が黒かった。あの色が本来なら、自分より後に来た証…あれ、私は何故こんな事を?私は知らない、憶えていない……憶えていない、はずなのに。