harmaa/if-x1
極東支部・壁上
「呼び出して言うのもなんですが、よく来てくれましたね……何故ですか?」
ハイブをぐるりと囲うアラガミ防壁の上、人はまばらに見つかるが、皆遠距離型神機を手に遠くのアラガミを待っている。桐生アヤカも銃形態の神機を手にしていた。
「……いいから、用件は?」
スルーされ、小さなショックを溜めた息に変えて吐くと「まあそうですよね」と小声で呟いた。
その呟きが'聞こえた'相手は首を傾げチラリと隣を見た。
「ああ、用件でしたね……貴方は何度か死んだ筈なんですよ、事実ならここに居る事はおかしいんです。どうして貴方はそこにいるんですか?」
にこりと微笑むと相手の隣を見る。それに気が付いた隣は影に紛れた。
「……私の身体は半分機械ですから、脳が無事かパーツがあれば生き延びられる」
再びアヤカは溜め息を吐くと神機に手をかける。
「そんなことは既に知っています……私が聞きたいのは、何故そこまでして留まる必要があるんですか?ということです。貴方は何度も居なくなると言っていましたよね?」
神機の柄をそっと撫でてから近接形態にする。一方の相手は時々隣にアイコンタクトを交わす程度で身動きひとつしていない。
「……それは、ただ____
「ただ?」
『__!危ない!』
危機察知した二人はほぼ同時に攻撃をした。大きな衝撃を受けた物はそこを中心に爆発し、周囲を白い煙で包み込んだ。
『注意が散漫していますよ!』
「はあ……なにをやってるんですか」
'隣の人'とアヤカから同時に怒られ肩をすくめる。話より身の安全の方が大事なようだ。
「……やっぱり、そこに居たんですね……。」
神機を肩にかけ一歩引くと声が聞こえた側を睨み注意を凝らす。今のアヤカに見る事は出来ないが、聞き、感じる事は可能。
【のー こんてぃにゅー】
harmaa-2
意識がはっきりするまで頭を振ったが、もう既に依頼主はラウンジを出ていってしまったらしく、姿は視界内に見当たらなかった。
依頼主より遅れる事は、多大な迷惑をかける事になる。そうなる前に急いで後を追おうと立ち上がった瞬間、ニコニコ笑顔のムツミに捕まえられる。
「えと……ムツミちゃん……?」
何故捕まえられたのかは知らないが、早く支度をしなければ。
「どうして裾を掴んでいるんですか…?」
「……あれ、わかってない?」
えっと、これ、呆れられてますね。意図が掴めず、顔をじっと見ていると遂にため息を吐かれた。
「……お代、貰ってないよ」
「あっ」
顔が青ざめるのが自分で分かった。忘れていた。いつもではないが忘れる事が多くある。
慌てて財布を取り出すと鞄からコインが床に転がる。面は表。なにかの模様が彫られてあるが自分には分からなかった。きっと大事なものだったのだろう。
コインをポケットにしまうとお代をお釣りなしで支払う。
「ごめんなさい、ムツミちゃん…忘れていました。」
「ううん、しょうがないよ。だってアヤカさんはそういう事が多いって報告を受けたから。」
ムツミは案外あっさり許してくれた。ただ、諦められていることと、報告を受けた点が少し引っかかる。その報告をした人は一体誰なのだろうか?
「そういえば、さっき特務があるって話してなかった?その時間は大丈夫……?」
思案を始めた途端、遮られた。
「忘れていました!すぐに行ってきます!」
またもや忘れていた。報告の事は後で聞くとして、今大事なのは特務のことだ。任務をこなさなければ神機使いになった意味がないことになる。それは嫌だ。
ーーーーー
ターミナルで用意を済ませ、後は神機を保管庫に取りに行くだけ……だが、ミッションについての説明を全く受けていないことに気が付いた。
特務についてのメールには、依頼主名と時間しか書かれていなかった。大事だったり秘匿したい任務だと依頼主の名前は書いていない。しかし、今回は名前はがあるものの内容が抜けている。
依頼主のユトとかいうのは、私と一つしか変わらないらしいが、年齢よりも外見がずっと幼く見えた。
違和感を覚えたのはそこだけではなく、髪の色もだった。私と同じあの灰色は、色を落としたあと何らかの手を加えねば出来ないが、まだ毛先が黒かった。あの色が本来なら、自分より後に来た証…あれ、私は何故こんな事を?私は知らない、憶えていない……憶えていない、はずなのに。
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極東支部・ラウンジ
一日の中で一番暑い時間帯、正午過ぎ。食を摂りに集まる神機使いも多いからか空席が少なく、とても賑わっている。
「ムツミちゃん!オムライスの普通のを一つお願いしますねー」
たった今オムライスを選んだ神機使いも午前の周回が終わり、昼食を摂ろうとしているところだ。名前は桐生アヤカ、部隊には所属していないが遊撃として任務の補助に入る事もある。腕輪は黒。
近くにあった空席に座り鞄からファイルと端末を取り出すと、写真を呼び出し記憶と違う所を探す。のだが?
「A地区……B地区……あれ?」
ただ、彼女の記憶は不安定な物で数日の間しか持たず、一週間も経つと大事な事以外はほぼ忘れる…という報告が本人から上がっている。その為一度確認した後に複数人の確認が入り、人が少ない中で人員が割かれる為上はよく思っていないらしい。
「……まあいいです、データ送れば何とかしてくれるでしょうし。」
全然良くないぞ?
それから少しするとムツミちゃんのオムライスが運ばれてくる。食事を見るとすぐに端末をしまい喰べる姿勢をとった。卵の上にケチャップでカピバラのカルビか描かれておr作者は飯テロが上手くないので通常の食事描写はカットします。
「ごちそうさまでした!やはりムツミちゃんのご飯は美味しいですね」
感謝の気持ちを込め手を合わせて礼をする。しばしの幸せな気分を味わっている所に着信音が端末から鳴った。顔をしかめながら文面を見ると、特務が発行されたらしい。
「って……もう時間じゃないですかっ!!特務、うーん……」
折角のオムライスで気分上がってたのに、と肩を落としてしょんぼりしていると特務の相棒が気になってくる…任務が久しぶりというのが、特に。
「……桐生アヤカ」
「はっはいぃ!!??」
急に名前を呼ばれたものなので思わず立ち上がってしまうと後ろから"わぁっ"と可愛らしい悲鳴が聞こえた。慌てて聞こえた方を向くと眉間に皺を寄せムッとした顔の神機使いがいた。
「もしかして…依頼主さんだったり……」
「む……そう。特務、来てくれるよね?」
「ごっごめんなさい!!お煎餅あげますから許して下さ__
ガサガサと腰の鞄を漁っていると依頼主はアヤカの頭をチョップした。手を離して"時間が無い"と言うと、痛がって頭を抱えているのをよそにさっさとラウンジから出ていってしまった。